【神の試しと九十九神(つくもがみ)】~下照姫と高照姫 《癒奏術・山桜の章》
神の「試し」
目の前に現れた女神は、十二単に身を包み、頭には冠を戴いていた。
『よう参られた』
女神はゆっくりと言葉をかける。
その女神の傍らに「御付き」の侍女がニコニコとしながら佇んでいる。
女神はさらに
『どうして来られた』」
と、優しい労わりの口調で話す。
いや、どうしてもこうしても、自分の意思で来た覚えはないのだが・・・
どう答えようかと思いながら女神を見ていて、ふと「違和感」をおぼえた。
優しい労わるような言葉の奥に「意」が無いように感じる。
まるで「傀儡(くぐつ)」のようではないか?
と、そう思った時、傍らに佇んでいたいた「侍女」が
『よう見抜いたのう、さすがじゃ。えらいえらい。』
くだけた口調でしゃべりだした。
「あぁ、こっちが本物か。」
先ほどまでの女神は、「傀儡」と見抜いた瞬間に「傀儡」となり
『どうして来られた?』
という言葉を繰り返すだけの人形と化した。
『よし、合格じゃ、ははははは。』
『こんなことは日常茶飯事じゃからな。心せよ。』
『それにしても気付くのが早かったな・・・傀儡の出来が悪かったかの?』
「・・・・・・・」
よくしゃべる。
『まぁ、褒めて遣わす。』
そういいながら私の前に片膝ついて頭を垂れた。
『よう参られました。』
これには驚いた。
どう対処していいかわからない。
戸惑っていたが、そんなことはお構いなしに、どんどん先へと進んでゆく。
『ではこれはどうじゃ?』
片膝ついたまま頭を上げて「不敵な笑み」を浮かべて言う。
気付くと片膝ついた侍女が「二人」に増えていた。
「!」
どっちが本物か?・・・ということか?
じっと二人を見比べる。
一人は不敵な笑みを浮かべているが、もう一人の笑みは優しい。
つまりは「同じ」ではない。
「お二人いますね」
と答える。
「下照姫と高照姫」
自然とその言葉が出た。
どっちがどっちかわからないが、恐らく「不敵な笑み」を浮かべている方が「下照姫」で、「優しい笑み」を浮かべている方が「高照姫」
そう思った瞬間に
『そうじゃ』
と嬉しそうに「下照姫」が言う。
二人の女神は立ち上がり
『顔合わせも済んだことじゃ。それではきょうはこのへんで。』
と下照姫が言い
『ではまた』
と、高照姫。
そして二人の女神は飛ぶように去っていった。
「・・・・・・」
いやいや、このままでは納得がいかない・・・と思い、どちらか片方を追うことにした。
追うことにした瞬間、片方の女神の「背」に「影」として張り付いた。
『おや、こんなことが出来るのかえ。』
貼りついた影に気付いて女神が言う。
自分でもこんなことが出来るなどとは初めてのことで、やろうと思ってやったことではなかった。
女神の背に張り付いていたら「地上」へとやって来た。
おそらく「高照姫」のほうに張り付いたようだ。
地上に着くと女神と対面していた。
九十九神
『では、ひとつ教えておこう。』
そう言うと、目の前に得体のしれない生き物のようなものが現れた。
明らかに知能が低い生き物のようで、一つ二つの目的でしか動かない、これも「傀儡」のように見える。
『それは物の霊じゃ。』
『物の霊は本来意思を持たない。だが、そこに意思を与えるものがおればこうなる。』
「意思を与える?」
『意思を与えるものによって姿が変わる。その意思が姿となるのじゃ。』
「なるほど、意思の善し悪しで姿も存在そのものも変わるのか。」
『では斬れ』
「え?」
『そいつだけ斬っても消えぬ。意思の元となる霊も同時に斬れ。』
「え?元の霊はどこにいる?」
少し離れたところに小さな霊体があった。
「これのことか?」
得体のしれない大きな蠢く霊体と、少し離れたところに蠢いている小さな霊体がある。
「同時に斬る?」
やってみるしかない。
背中から剣を抜き、蠢く大きな霊体を斬り、そのままの流れで小さな霊体を切るイメージで・・・
剣を一閃させた。
ちゃんとイメージ通りに出来た。
『こやつは鋏(ハサミ)の霊じゃ。だから危ない。』
ハサミのイメージなど全くなかったが・・・・
『使うものの心が邪なれば邪な物の霊となる。意思と物の在り方が混じり霊となる。だからハサミは危ない。』
「なるほど。」
『物の在り方を歪めてはならぬ。歪めなければ在り方そのままの霊であり続ける。研がれ磨かれた物の霊となり物に宿り続ける。だが、邪が入ればさっきのように別の意思を持つ。』
『意思を与えるのは使う者だけではない。邪な霊が意思を与えることもある。さっきのような力無い小さな意志を持つ霊が、物に宿る霊と融合しより大きくなろうということじゃ。』
『それが融合すれば、意思を与えた小さな霊に「ハサミ」の在り方が加わってしまい、より危険なものとなる。』
「だから消滅させるか。」
『消えはせん。還るだけじゃ。』
『ではこの辺で。またいつでも来られよ。』
そういって高照姫はスッと消えた。
なんとも「慌ただしい」女神たちである。
だが、これで二人の女神と『繋がり』が出来た。
そして・・・・
仕事も増えた・・・・・・・・
そういえば二人とも『劔の女神』の系譜だったな・・・・
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