黄泉平坂の【那美の神】 《癒奏術・山桜の章》




朝の夢現(ゆめうつつ)の狭間で、現世のほうから

「お~い」

と呼ぶ声がした。



眼を開けてしばらく気配を探り、考えながら

「うちには誰もいない。外から声がした気配もないな・・・誰だろうか。」



再び目を閉じ、現世のほうから離れると、目の前に後ろ姿の女性の姿が現れた。

岩だらけの場所で「凜」と立つ白く長いドレスのような衣装と、背中まで伸びた黒髪。


「誰だろう」

思った次の瞬間、彼女がこちらを向いたのか、私が移動したのか・・・彼女の正面に居た。



きりっとした大きな瞳には、力強い光がたたえられている。

そのめにじっと見据えられながら

「誰だろう」

再び思うと

【那美】

その思いが返ってきた。




辺りを見回すと岩ばかりに囲まれた景色である。

それを見て「あぁ、ここは黄泉平坂だ」と理解した。


再び目の前の【那美神】を見る。

微笑みをたたえているが、眼光の強さ、鋭さがその微笑を「別の」ものに感じさせる。


「魔女」の霊を時々見るが、それに似ている。

だが、決定的に違うのは『闇』を一切纏っていないこと。


魔女の霊はおおよそ、生きて来た中で受けた「闇」を、死んでなお纏っている。

だから白い衣装など着ることは無い。




目の前の【那美神】が口を開いて何か話し始めた。

だが声は届かず、思いの玉が飛んできて・・・はじけた。


ーーー


那美神は加具土命を生み女陰(ホト)を焼かれ、那岐那美の国生みは途絶えた。

それは【稚姫】が女陰(ホト)を突かれて「機織り」が出来なくなったことに現れ

【咲耶姫】が産屋(ホト)に火を放ったことに現れ

【豊姫(日皇女・ヒミコ)】のウガヤフキアエズ朝からヤマト朝を生むために「岩戸」を閉めた「最後の豊姫(日皇女)」、それを手伝った神功皇后・・・・

それ以外にも情景が浮かぶが、それらの物語を知らない。


だから国生みのたびに女神はこの世を去り、黄泉へと向かい「岩戸」を閉める「業」となった。


ーーー



一気に流れ込んできた情報を整理して、「そうなのか・・・」と理解した。

そして再び那美神を見ると、先ほどの眼光の鋭さは和らぎ(それでも強いが)、微笑を浮かべて


『終わりじゃ』


そう一言つぶやいた。



『黄泉平坂はすでに重なっておる。現れているであろう。これからもっと重なる。影響は強くなる。』


『次の国生みに「業」はない。だが「業」の巡りの最後がある。心せよ。』


「・・・・・・」



そして、スゥーっと目覚めた。

眼を開くと目の前に『銀の龍』が泳いでいた。

そして、スッと消えていった・・・・




「業の巡りの最後」とは何だろう・・・・・・・


また難問を残された。